大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所大法廷 昭和27年(あ)4533号 判決 1958年7月09日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人裾分正重、同松岡一章の上告趣意(冒頭の所論中破棄差戻判決に関する点は、上告理由とは認められないし、また、原判決の告知に関する点は、単なる訴訟法違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。)第一点について。

所論は判例違反をいうが、所論引用の判例は本件に適切でないばかりでなく、所論は原判決の判示に副わない事実関係を前提とするものと認められるから、その前提を欠き刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

同第二点について。

酒税法(昭和二三年法律一〇七号による改正前のもの)五四条は、「酒類、酒母、醪若ハ麹ノ製造者又ハ酒類若ハ麹ノ販売業者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ製造、貯蔵又ハ販売ニ関スル事実ヲ帳簿ニ記載スヘシ」と規定し、同法六五条一号は、「左ノ各号ノ一ニ該当スル者ハ三万円以下ノ罰金又ハ科料ニ処ス。一、第五四条ノ規定ニ依ル帳簿ノ記載ヲ怠リ若ハ詐リ又ハ帳簿ヲ隠匿シタル者」と規定し、また、酒税法施行規則(昭和二三年政令第一四八号による改正前のもの)六一条九号は、「酒類、酒母、醪又ハ麹ノ製造者ハ左ノ事項ヲ帳簿ニ記載スヘシ、九、前各号ノ外製造、貯蔵又ハ販売ニ関シ税務署長ノ指定スル事項」と規定している。右酒税法六五条によれば、同法五四条の規定による帳簿の記載を怠った者等は、所定の罰金、科料に処される旨規定しているから、同六五条の規定は、罪となるべき事実とこれに対する刑罰とを規定したいわゆる罰則規定であり、同五四条の規定は、その罪となるべき事実の前提要件たる帳簿の記載義務を規定したものということができる。しかるに、同五四条は、その帳簿の記載等の義務の主体およびその義務の内容たる製造、貯蔵又は販売に関する事実を帳簿に記載すべきこと等を規定し、ただ、その義務の内容の一部たる記載事項の詳細を命令の定めるところに一任しているに過ぎないのであって、立法権がかような権限を行政機関に賦与するがごときは憲法上差支ないことは、憲法七三条六号本文および但書の規定に徴し明白である。そして、前記酒税法施行規則六一条は、その一号ないし八号において、帳簿に記載すべき事項を具体的且つ詳細に規定しており、同条九号は、これらの規定に洩れた事項で、各地方の実状に即し記載事項とするを必要とするものを税務署長の指定に委せたものであって、前記酒税法規則においてこのような規定を置いたとしても、前記酒税法五四条の委任の趣旨に反しないものであり、違憲であるということはできない。それ故、原判決は、結局正当であって、論旨は、採るを得ない。

よって、刑訴四〇八条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介 裁判官 入江俊郎 裁判官 垂水克己 裁判官 河村大助 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 奥野健一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例